
「見て、これ」
妹が少し弾んだ声で呼ぶ。
振り向くと、ブルーベリーの木の前でしゃがみこんでいた。
その指先の先に、小さな新芽。
まだほんのり赤みがかっていて、きゅっと丸まっている。
触れたらほどけてしまいそうなくらい、やわらかそうだ。
「かわいいなあ」
思わず、そんな言葉が出る。
「ほんまやな。ちっちゃいのに、ちゃんと葉っぱの形してる」
妹も覗き込みながら、少し笑う。
冬のあいだは、ただの枝のように見えていたのに。
こうして春になると、ちゃんと動き出す。
その当たり前のことが、毎年少しだけ不思議に思える。
一つひとつの芽が、まるで目を覚ましたばかりの子どもみたいで。
「起きたで」とでも言っているように見えるのだ。
しゃがんだまま空を見上げる。
今日は、よく晴れている。
少し暖かい風もやさしい。
空が広くて、少しだけ胸の奥がほどける。
「この空、気持ちええな」
妹がぽつりと言う。
「うん、ほんまに」
それ以上の言葉はいらない気がした。
さっきまで考えていた作業のことも、細かい段取りも。
この空の下では、少し遠くに置いておける。
ブルーベリーの新芽が、風にかすかに揺れる。
まだ頼りないのに、どこか堂々としている。
「ちゃんと大きくなるんやろな」
「なるやろ。毎年、ちゃんとなってるし」
そう答えながらも、その“ちゃんと”が、どれだけありがたいことかを思う。
何も言わなくても、季節は進んで。
木は芽を出して、空はこうして広がっている。
私たちは、その中で少しだけ手を貸しているだけなのかもしれない。
立ち上がると、また次の作業が待っている。
でも、さっき見たあの小さな新芽が、少し背中を押してくれる気がする。
畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

