
「これ、どう見ても失敗やんな」
妹が小さく笑いながら、私の手元をのぞきこんだ。
手のひらに乗せた蒸しパンは、見事なくらいぺたんこで。
本来ならふわっと丸くなるはずのところが、ずっしりと重たいまま固まっている。
朝、少しだけ急いでいたせいだろう。
火加減も、水の量も、どこかで雑になっていた気がする。
「まあ、食べられへんことはないやろ」
そう言ってみたものの、内心は少し悔しい。
せっかく休憩用にと思って作ったのに、と思う。
畑の端に置いた、ひっくり返したカゴ。
それをテーブル代わりにして、水筒をそっと置く。
いつもの簡単な休憩場所だ。
土にそのまま腰を下ろすと、じんわりと冷たさが伝わってくる。
でも、それがどこか心地いい。
風が少し吹いて、葉っぱがやわらかく触れ合う。
遠くで鳥の声がする。
こういう時間は、何も足さなくても、ちゃんと満ちているものですね。
「食べてみよか」
蒸しパンを半分に割る。
中もやっぱり、少し詰まっている。
ふわふわとは言いがたい仕上がりだ。
一口、かじる。
「…あれ」
思わず声がこぼれた。
「どうしたん」
妹が不思議そうに見る。
「これ…思ってたより、おいしい」
「え、ほんまに?」
そう言って、妹も一口。
そして、同じように少し目を丸くした。
「ほんまや。なんか、ええ感じやん」
さっきまでの失敗の気持ちが、ふっと軽くなる。
家で食べていたら、きっと「失敗やん」で終わっていたと思う。
でも今は違う。
この空気も、風も、少し疲れた体も、全部が重なって。
ただの蒸しパンを、ちゃんとした“ご褒美”にしてくれている。
「また作ろかな」
妹が静かに言う。
「今度は、ちゃんと膨らましてや笑」
そう答えながら、もう一口かじる。
やっぱり少し詰まっている。
でも、その素朴さが、どこか落ち着く味でもある。
失敗したはずなのに、こうして笑いながら食べている。
それだけで、今日はいい日だと思える。
畑のおやつは、不思議だ。
どんなものでも、ちゃんとおいしくなる。
きっと、ここで過ごす時間ごと味わっているからだろう。
畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

