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Deai orchard

生産者のお便りとお知らせ
寒かった時のお話。
6日前
寒かった時のお話。

【1月のある日 冷たい空気と、あたたかいお弁当】

「さむ…」

思わず、息と一緒に言葉がこぼれた。

手袋をしていても、指先がじんとする。

畑の土も、どこか固くて。

踏むたびに、冬の音がする。

 

作業をしていると、体は少しずつあたたまってくるけれど。

最初の一歩が、どうしても重たい。

 

「今日はなかなかやな」

妹も肩をすくめながら言う。

 

「ほんまやね。でも、この寒さはちょっと安心するわ」

 

そう返すと、妹が少し不思議そうな顔をした。

 

冬は寒くて、正直しんどい。

でも、このきちんとした寒さがあるからこそ。

木も、ちゃんと休める。

虫も落ち着いて、春の準備が整う。

 

もし、この寒さがなくなってしまったら。

 

ふと、そんなことを考える。

 

四季が少しずつ曖昧になっていって。

冬なのにあたたかくて、春が急に来てしまうような世界。

 

「それ、ちょっと怖いな」

 

「やろ?」

 

想像するだけで、胸の奥がざわっとする。

当たり前に巡っているものが、当たり前じゃなくなること。

それが、こんなにも不安になるとは思わなかった。

 

だからこそ、この冷たい空気も。

少しだけ、大事に思えるのだ。

 

「お昼にしよか」

 

父の声で、作業を止める。

 

今日は少し特別なお弁当だ。

 

包みを開けると、チキンカツ。

しっかり衣がついていて、見るだけで嬉しくなる。

 

「え、今日すごない?」

妹が目を輝かせる。

 

「豪華やなあ」

 

冷たい空気の中で食べるチキンカツは、いつもよりずっとおいしい。

かじると、じんわりと味が広がる。

 

そして、お味噌汁。

 

湯気が、ふわっと立ち上る。

 

「これが一番やな」

 

一口飲むと、体の奥までじんわりあたたかくなる。

 

「はぁ…あったまるなあ」

妹がほっとしたように言う。

 

「ほんまに」

 

さっきまでの寒さが、少しだけやわらぐ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

5月の畑。

新緑がやわらかく光っていて。

風もあたたかくて、作業していても心地いい季節。

 

同じ場所なのに、まるで違う顔をしている。

 

今はまだ、枝だけの景色だけれど。

この寒さを越えた先に、あの緑がある。

 

そう思うと、この冬の一日も、ちゃんとつながっているのだと感じる。

 

寒いのは、やっぱり大変だ。

でも、この寒さがあるからこそ。

春も、初夏も、あんなに気持ちいいのだろう。

 

畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

残っていた実と、きれいに整った隣の畑
6日前
残っていた実と、きれいに整った隣の畑

「…あれ?」

ブルーベリーの枝を見ていて、ふと手が止まった。

去年のまま、取り残されていた実。

 

すっかり色も抜けて、小さく縮んでいる。

触れてみると、やわらかさはなくて。

でも、崩れることもなく、ちゃんと形を残している。

 

「ドライブルーベリーみたいやな」

 

思わず、そんな言葉が出た。

 

少しだけ、かわいらしいと思ってしまう。

本来なら、収穫されて誰かに食べられていたはずの実。

それがこうして、静かに枝に残って、時間を過ごしていたのだ。

 

「これ見てほしいな」

 

そう思って、すぐに姉にLINEを送る。

写真も一緒に。

 

『去年の忘れ物、こんなんなってた』

 

少しして、返事が返ってくる。

 

『ほんまや、かわいいやん』

 

その一言で、なんだか嬉しくなる。

 

誰かと共有すると、こういう小さな発見も、ちゃんとした出来事になる。

 

顔を上げると、ふと隣の畑が目に入った。

 

柿の畑だ。

 

ついこの前まで、草が少し残っていたはずなのに。

今日は、見違えるようにきれいになっている。

 

地面がすっと整っていて。

余計なものがなくて、木の姿がきれいに見える。

 

「すごいなあ…」

 

思わず、声が漏れる。

 

「めっちゃきれいやな」

妹も同じ方を見ながら言う。

 

「手入れ、ちゃんとしてはるんやろな」

 

その場で、思わず写真を撮る。

 

ただ整っているだけじゃなくて。

大事にされている感じが、ちゃんと伝わってくる。

 

木も、土も、どこか誇らしげに見える。

 

「うちも、こんなんにしたいなあ」

 

ぽつりとつぶやく。

 

「できるやろ」

妹があっさりと言う。

 

「やるだけやで」

 

その言葉に、少しだけ背中を押される。

 

さっき見つけた、小さなドライブルーベリーも。

隣のきれいに整った畑も。

どちらも、この場所で流れている時間の一部だ。

 

見過ごしてしまうこともあるけれど。

ちゃんと目を向けると、いろんな表情がある。

 

一つひとつ、大事にしていきたいと思う。

 

畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

ブルーベリー畑のこめちゃん
6日前
ブルーベリー畑のこめちゃん

先日、矢田山のブルーベリー畑へ、飼い犬のこめちゃんを連れて行ってきました。山の空気は少しひんやりしていて、畑のまわりには春らしい草の匂いが広がっていました。ブルーベリーの木々も少しずつ葉を増やしていて、「今年もまたこの季節が来たなあ」と感じる穏やかな時間でした。

そんな中、こめちゃんの様子がなんだか少し変。いつもなら畑の中を元気に走り回ったり、虫を追いかけたりしているのに、その日はやけに静かで、地面の匂いを真剣に嗅いでいました。そして突然、畑の端に生えていた草をむしゃむしゃ食べ始めたのです。

「あれ?そんなに草好きだったっけ?」と思いながら見ていると、どうやら最近のおばあちゃん家での“ご馳走ラッシュ”が原因だったみたいです。連日、みんなにかわいがられて、お肉やおやつをたくさんもらっていたこめちゃん。本人(本犬?)としては夢のような日々だったのでしょうが、少し食べすぎて胃もたれしていたのかもしれません。

犬って、胃が気持ち悪い時に草を食べることがあると聞いたことがありますが、まさにその光景でした。真剣な顔で草を選びながら食べている姿が、なんともかわいくて、思わず笑ってしまいました。しかも、食べ終わった後は少しスッキリしたような顔をしていて、「ふう、整った」という感じでこちらを見てくるので、余計におもしろかったです。

自然の中にいると、動物たちの本能的な行動がよく見えてきます。人間だったら胃もたれした時に胃薬を探しますが、こめちゃんは自分で草を選んで調整しているのだから不思議です。矢田山の静かな畑の景色と、草を食べるこめちゃん。その組み合わせがなんだかのどかで、見ているこちらまで癒やされました。

ブルーベリー畑では、作物の成長を見るのももちろん楽しいですが、こういう何気ない出来事も大切な思い出になります。今年もこめちゃんと一緒に、季節の変化を感じながら畑での時間を過ごしていきたいです。

ブルーベリーが少しずつ実ってきました・・・!
6日前
ブルーベリーが少しずつ実ってきました・・・!

最近、矢田山のブルーベリー畑では、少しずつ実が目立つようになってきました。まだ小さくて緑色の実ばかりですが、枝先にたくさん付いている様子を見ると、「今年もちゃんと育ってくれているんだなあ」と嬉しくなります。

特に今年は、新梢がたくさん伸びてきているのが印象的でした。去年よりも勢いよく若い枝が出ていて、株全体に元気がある感じがします。ブルーベリーは新しい枝に良い実を付けることが多いので、新梢を見るたびに期待が膨らみます。春先に剪定や草管理を頑張ったことも、少しは良い影響になってくれているのかもしれません。

畑を歩いていると、葉の間から丸い実がちらちら見えて、それだけでもなんだか幸せな気持ちになります。今はまだ硬くて緑色ですが、よく見るとほんの少しだけ色が薄くなり始めている実もあって、「これは今月末には色付いてくるかも」と感じています。ブルーベリーが青く色付く直前の、この“もうすぐ感”が実は結構好きだったりします。

毎年、色付き始める瞬間は本当に一気です。昨日まで緑だったのに、気づけば青紫色に変わっていて、「もうこんな季節!?」と驚かされます。今年は花付きも悪くなかったので、収穫も期待できそうです。

もちろん、ここから鳥対策や水管理など、まだまだ気を抜けない時期ではありますが、それでも実が膨らんでいく様子を見ると、自然とわくわくしてきます。畑で過ごしていると、季節が進む速さを実感しますね。

今月末、最初の一粒が青く色付く瞬間を楽しみにしながら、これからも毎日の畑時間を大事にしていきたいです。

ボサボサの畑と、頼りすぎてる相棒
2026/05/06
ボサボサの畑と、頼りすぎてる相棒

「これは…なかなかやな」

畑に入って、思わず声が出た。

冬を越えた草が、そのまま枯れて。

あちこちで絡まるように立っている。

 

風が吹くたびに、かさかさと音を立てる。

まるで「そろそろやで」と急かされているみたいだ。

 

「手入れ、せなあかんな」

 

そう言いながらも、少しだけ気合いがいる景色だ。

きれいに整っていた時期を知っているからこそ、このボサボサ具合はなかなか堪える。

 

腰に手を当てると、いつもの重み。

道具入れが、しっかりとぶら下がっている。

 

剪定ばさみ、手袋、紐、小さなナイフ。

あれもこれもと入れているうちに、いつの間にかパンパンになってしまった。

 

「ちょっと詰めすぎちゃう?」

妹が横から覗き込む。

 

「いや、これ全部いるねん」

 

そう答えながらも、自分でも少し笑ってしまう。

 

歩き出した瞬間。

 

「…あ」

 

小さな音と一緒に、何かが落ちた。

 

「あーもう、またや」

 

しゃがんで探す。

でも、枯れた草の中に紛れると、小さいものはすぐに見えなくなる。

 

「どれ落としたん」

 

「クリップみたいなやつ」

 

「それ、見つけるん大変やで」

 

妹も一緒に探してくれる。

 

少しの間、無言で手を動かす。

草をかき分けて、土を少し払って。

 

「あった」

 

ようやく見つけて、ほっとする。

 

「よかったなあ」

 

「ほんまに」

 

小さいもの一つでも、畑の中では簡単に隠れてしまう。

広いようでいて、こういうときだけやけに手強い。

 

道具入れを軽く叩く。

 

「すまんな、ちょっと酷使しすぎやな」

 

心の中でそう言うと、なんとなく少しだけ軽くなった気がする。

 

でもきっと、またいろいろ詰め込んでしまうのだろう。

それだけ頼りにしている証拠でもある。

 

「よし、やろか」

 

気を取り直して、草に向き直る。

 

最初のひと束を引き抜くと、土の匂いがふわっと立つ。

少しずつ、景色が変わっていくはずだ。

 

大変だけど、嫌いじゃない。

こうして手を入れていく時間が、畑をまた整えてくれる。

 

畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

ふくらまなかった蒸しパンと、畑のご褒美
2026/04/06
ふくらまなかった蒸しパンと、畑のご褒美

「これ、どう見ても失敗やんな」

妹が小さく笑いながら、私の手元をのぞきこんだ。

手のひらに乗せた蒸しパンは、見事なくらいぺたんこで。

本来ならふわっと丸くなるはずのところが、ずっしりと重たいまま固まっている。

朝、少しだけ急いでいたせいだろう。

火加減も、水の量も、どこかで雑になっていた気がする。

 

「まあ、食べられへんことはないやろ」

そう言ってみたものの、内心は少し悔しい。

せっかく休憩用にと思って作ったのに、と思う。

 

畑の端に置いた、ひっくり返したカゴ。

それをテーブル代わりにして、水筒をそっと置く。

いつもの簡単な休憩場所だ。

土にそのまま腰を下ろすと、じんわりと冷たさが伝わってくる。

でも、それがどこか心地いい。

 

風が少し吹いて、葉っぱがやわらかく触れ合う。

遠くで鳥の声がする。

こういう時間は、何も足さなくても、ちゃんと満ちているものですね。

 

「食べてみよか」

蒸しパンを半分に割る。

中もやっぱり、少し詰まっている。

ふわふわとは言いがたい仕上がりだ。

 

一口、かじる。

 

「…あれ」

思わず声がこぼれた。

 

「どうしたん」

妹が不思議そうに見る。

 

「これ…思ってたより、おいしい」

 

「え、ほんまに?」

そう言って、妹も一口。

そして、同じように少し目を丸くした。

 

「ほんまや。なんか、ええ感じやん」

 

さっきまでの失敗の気持ちが、ふっと軽くなる。

家で食べていたら、きっと「失敗やん」で終わっていたと思う。

でも今は違う。

この空気も、風も、少し疲れた体も、全部が重なって。

ただの蒸しパンを、ちゃんとした“ご褒美”にしてくれている。

  

「また作ろかな」

妹が静かに言う。

 

「今度は、ちゃんと膨らましてや笑」

 

そう答えながら、もう一口かじる。

やっぱり少し詰まっている。

でも、その素朴さが、どこか落ち着く味でもある。

 

失敗したはずなのに、こうして笑いながら食べている。

それだけで、今日はいい日だと思える。

 

畑のおやつは、不思議だ。

どんなものでも、ちゃんとおいしくなる。

きっと、ここで過ごす時間ごと味わっているからだろう。

 

畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

ブルーベリーの新芽と、やわらかい空
2026/04/06
ブルーベリーの新芽と、やわらかい空

「見て、これ」

妹が少し弾んだ声で呼ぶ。

振り向くと、ブルーベリーの木の前でしゃがみこんでいた。

その指先の先に、小さな新芽。

 

まだほんのり赤みがかっていて、きゅっと丸まっている。

触れたらほどけてしまいそうなくらい、やわらかそうだ。

 

「かわいいなあ」

思わず、そんな言葉が出る。

 

「ほんまやな。ちっちゃいのに、ちゃんと葉っぱの形してる」

妹も覗き込みながら、少し笑う。

 

冬のあいだは、ただの枝のように見えていたのに。

こうして春になると、ちゃんと動き出す。

その当たり前のことが、毎年少しだけ不思議に思える。

 

一つひとつの芽が、まるで目を覚ましたばかりの子どもみたいで。

「起きたで」とでも言っているように見えるのだ。

 

しゃがんだまま空を見上げる。

今日は、よく晴れている。

 

少し暖かい風もやさしい。

空が広くて、少しだけ胸の奥がほどける。

 

「この空、気持ちええな」

妹がぽつりと言う。

 

「うん、ほんまに」

 

それ以上の言葉はいらない気がした。

 

さっきまで考えていた作業のことも、細かい段取りも。

この空の下では、少し遠くに置いておける。

 

ブルーベリーの新芽が、風にかすかに揺れる。

まだ頼りないのに、どこか堂々としている。

 

「ちゃんと大きくなるんやろな」

 

「なるやろ。毎年、ちゃんとなってるし」

 

そう答えながらも、その“ちゃんと”が、どれだけありがたいことかを思う。

 

何も言わなくても、季節は進んで。

木は芽を出して、空はこうして広がっている。

 

私たちは、その中で少しだけ手を貸しているだけなのかもしれない。

 

立ち上がると、また次の作業が待っている。

でも、さっき見たあの小さな新芽が、少し背中を押してくれる気がする。

 

畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

冬の畑と、おにぎり三つ
2026/04/06
冬の畑と、おにぎり三つ

カゴをひっくり返して、簡単な台をつくる。
その上に、お昼のおにぎりを並べる。
 
今日は三つ。
どれも、しっかり大きい。
 
「でかいなあ」
妹が少し笑う。
 
「これくらいないと、足りひんやろ」
 
そう言いながら、一つ手に取る。
冷たい空気の中で食べるおにぎりは、どうしてこんなにおいしいのだろう。
 
白いごはんの甘さが、やけにはっきりする。
 
二つ目に手を伸ばしかけたとき、妹が言った。
 
「それ、海苔ついてるやつやで」
 
見ると、一つだけ、きちんと海苔が巻いてある。
 
「ほんまや」
 
「たぶん、それ当たりやろ」
 
少しだけ迷ってから、そのおにぎりを手に取る。
 
かじると、中にしっかり味のついた具が入っていた。
少し豪華なやつだ。
 
「これ、ええやつや」
 
思わずそう言うと、妹が笑う。
 
「やっぱりな」
 
なんでもないおにぎりのはずなのに。
一つだけ違うと、それだけで少し嬉しくなる。
 
冬の畑の中で食べる、それだけで特別になる。
 
風は冷たいけれど、空はよく晴れている。
手はかじかんでいるのに、心はどこかゆるんでいる。
 
こういう時間があるから、また作業に戻れるのだと思う。
 
静かな畑も。
待ってくれている木も。
そして、このおにぎりも。
 
全部が、同じ時間の中にある。
 
畑には、作物だけじゃなく、こんな時間も育っている。

こめちゃんと畑時間
2026/04/05
こめちゃんと畑時間

我が家の犬、こめちゃんは、家族のことが大好きだ。
とくに、みんなで出かける時間が好きでたまらない。

畑に行く日も、それは同じ。
「今日は一緒に行くの?」とでも言いたげに、そわそわと足元をついてくる。

軽トラックの助手席が、こめちゃんの特等席だ。
窓を少し開けてもらって、外の空気を感じながら乗っている。

畑に着くと、自由時間のはじまり。

といっても、どこかへ走り回るわけではない。
好きな場所でくつろいで、気が向けばこちらをちらりと見る。

そして、またうとうとと眠る。

作業をしている私たちのことを、
「ちゃんとやってるかな」と見守っているようでもあり、
ただ安心しているだけのようでもある。

見て、眠って、また見て、眠る。

その繰り返しの中に、
こめちゃんなりの畑の楽しみ方があるのだと思う。

特別なことは何もしていないのに、
一緒にいるだけで、どこか満たされる時間。

畑には作物だけじゃなく、
こんな静かでやさしい時間も育っている。

妹と草刈り機と、少しだけ悔しい話
2026/04/01
妹と草刈り機と、少しだけ悔しい話

妹は、何をやっても要領がいい。
理解も早く、飲み込みも早い。

草刈り機もそうだった。

使い始めたのは、たしか私の方が早かったはずなのに、
気がつけば、妹の方がはるかに上手になっていた。

動きに無駄がなく、リズムもいい。
見ていて気持ちいいほど、機械を自然に扱っている。

一方で、我が家の草刈り機は少し気難しい。

一度休憩を挟むと、途端に動きたがらなくなる。
エンジンが、なかなかかからない。

父はその機械の“癖”をよく知っていて、
少しのコツで、何事もなかったかのようにエンジンをかけてしまう。

けれど私がやると、そうはいかない。

スターターロープを引く。
何度も引く。
そのうち、関節が外れるのではないかと思うほど引く。

それでも、かからない。

見かねた妹が近づいてきて、
「ちょっと貸して」と言うでもなく、自然な手つきで機械に触れる。

ネジを少し緩め、スイッチを確かめ、
まるで機械の機嫌を読み取るように操作する。

すると――

あっさりと、エンジンがかかる。

その姿は、どこか父に似ていた。

少し悔しくて、でも少し誇らしい。
そんな気持ちを抱えながら、今日も我が家の草刈りは続いていく。

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