安塚には、個性的な植物があちらこちらで生きています。
そんな植物たちのことを、少しだけご紹介します。
わたし達の暮らす安塚の家は、築40年以上たった、古い家です。
よくテレビで見る、「お洒落な古民家」とか「古民家カフェ」みたいな趣のある家というよりは、昭和中期の一軒家というか、どこにでもある普通の「古い家」です。
でも、せっかく暮らすならちょっとでも気分がワクワクする空間がいいなあと思って、少しずつ手をくわえながら、居心地がいいと思える様な空間づくりを少しずつすすめながら暮らしています。
こちらは、2階の和室です。数年前まで荷物であふれていたのですが、全部処分して、壁面の塗装と照明をつけました。自然を感じながら仕事をできるリモートオフィスで、お気に入りの空間です。
「自然環境や身体にできるだけ負担のかからないやり方でお米をつくりたい」
そんな想いで、私たちはお米を栽培期間中、無農薬・化学肥料不使用でつくっています。このお米を使って麹チーズケーキをつくっています。
化学肥料をつかわない代わりに、自然のものをつかった土づくりをします。
土づくりは、今のうちからやっておくことで、冬の間に土壌が豊かになり、来年のお米の育ちが良くなります。
先日は土づくりの作業の一つとして、籾殻燻炭(もみがらくんたん)を田んぼに蒔きました。
上越市安塚の里山のめぐみをおとどけしている、里山ボタニカル。私たちは、安塚の素材にデザインを加えながら、里山の価値を伝える食の開発にもとり組んでいます。
そんなフードメニューを開発するのに一役買ってくれているのが、キッチントラック “mullet”。
安塚で採れたさまざまな素材を、私たち独自の視点でその個性や魅力をみきわめ、デザインを加えながらメニューの開発を行なっています。
そして、このキッチントラックでたくさんの方々と直接お顔をあわせてお会いしながら、いただいたフィードバックを商品開発に反映させ、そのサイクルの中で素材の付加価値をさらに高めていく、食の研究開発機関です。
各地での紅葉のニュースが流れてきますが、安塚も少しずつ秋の色が深まってきました。
今日はカメラを持って少しのあいだ、紅葉狩り。
安塚では、苔の生えている岩をときおり見かけます。これまでなんとなく見過ごしていましたが、そんな岩苔の価値を再発見できる本に、最近出会うことができました。
造園家の高田宏巨さんが著した「土中環境」という本です。
とても興味深い内容で、普段私たちの意識が及ぶことがほとんどない土の中の環境が、森にとってとても大切だということを丁寧に教えてくれます。
その本によると、豊かな森の土の中には菌糸のネットワークが無数に張り巡らされていて、その森に生きる樹々も、根からその菌糸を介し、遠くの樹木ともコミュニケーションをとりながら生きのびているそうです。
苔の生えた岩の価値についても触れられていました。
大木が、岩に覆いかぶさる様に根を張っていることがあります。これは偶然ではなく、岩がミネラル分を土壌に対して豊富に供給してくれているため、樹木自身がその岩を好んだからなんだそうです。
そして、そんな土中にとって“良い”岩には微細な割れ目が無数にあり、水分が染み込んで、表面がしっとりと湿っています。
湿気を好む苔が岩に生えているのは、岩が土壌にミネラルを与え、森を豊かにしてくれていることの証なんだそうです。
「土中環境」という本に出会って、里山のちょっと神秘的な側面も再発見できた様に思います。この本、とってもオススメなので、もしご興味あれば是非読んでみてください。
以前、ミラノのあるボタニカルガーデン「オルトボタニコディブレラOrto Botanico di Brera」に行った際、赤紫蘇が目にとまりました。梅干しを作る際に使う、幼い頃から身近な植物です。
イタリアのボタニカルガーデンでは、日本で身近にある植物なども研究対象として植栽されています。植物への深い洞察がベースにあり、そこから食や芸術、文化などに昇華していく様相を、ミラノでは街中から感じ取ることができました。
新潟県上越市の中山間地に位置する安塚は、過疎と高齢化が進む一方、棚田など魅力的な風景をもつところです。私たちはミラノで感じた植物への深い敬意や洞察を胸に、この地にローカルブランド「里山ボタニカル」を立ち上げました。
安塚の里山には、様々な種類の樹木や植物が自生しています。一見、何気なく、ただ生えているだけに見える植生も、丁寧にみつめてみると、それぞれ愛おしく感じられるような個性や、深いストーリーをもっていることに気付きます。
けれど、その植生の価値を見出し、それらに敬意をもった暮らしや文化には、まだなかなか出会えない様に思います。安塚の里山に小さな植生や環境、先人より受け継いできた棚田の美しい風景をより深く理解し、尊重する生き方をつくっていけたら。
そんなことを想いながら、この地に暮らしています。
私たちがお米をつくっている田んぼは、公設の用水路のない、いわゆる「天水田」と呼ばれ、雨水のみを頼りにしている田んぼです。
昨年、少しでも水の確保をしやすくしようと、ため池をつくりました。
このため池、今ではたくさんの生き物たちの拠り所になっています。
田んぼの作業がてら、ちょっと水のなかをのぞいてみると、カエルやおたまじゃくし、ゲンゴロウやタガメなどの水生の動物たちが元気に泳ぎまわっています。
水面にはコナギやヒエ、オモダカなどの水草も生えています。これらは田んぼに生えると嫌がられますが、ため池に生えてくれる分には、生き物たちの住処にもなる、大切な植生です。
たくさんの生き物たちの姿をみると、「山の中で私たちがお米をつくることが、里山の生態系にも少しは良い影響を与えられているのかも。」と、ちょっと嬉しくなります。
お米づくりを通して、生き物たちの暮らしを担う里山が少しでも整っていってくれたら嬉しいな。と思います。
2018年から始めた棚田での米作り。ほぼ初心者なのに、栽培期間中農薬や化学肥料を使わないと高いハードルを設定した1年目。ワサワサ生えてくるヒエに除草の手が追いつかず、地域のお母さんの強力な力を借りて“田の草採り”をし、なんとか乗り切ったものでした。
3年目の2020年、冬の間に探した新潟県農業技術研究所が開発した除草機に一縷の望みをかけ、さらに担い手がいなくなった棚田を1枚増やしてのスタート。途中、アオミドロの水中攻撃に遭遇しつつ、除草機の効果を実感しながら7月に入ることができました。
田んぼのなかだけでなく、その周辺の環境も大事なんだと整備を進めるなかで気づくことがあります。
それは、田んぼのまわりに様々な素材があること。フキ、ヨモギ、ワラビ、ウド、コゴミ、セリ、ミツバ、桑、柿など、食用や飲料に加工できるものも多く自生しています。
田んぼに害虫が寄ってくるのを防ぐため除草をするその先に、食につながる魅力的な植物との出会いがあります。自生する植物がもつ生命力。その力をもって食に変換していきたいと考えています。
栽培期間中、農薬や化学肥料を使わずに育てた米で、「麹チーズケーキ」を作り始めて3年目になりました。
私たちが展開する地域ブランディングのなかで食がもつ伝達力に気づき、その後のキッチントラック事業から生まれた麹チーズケーキに、私たちなりに社会へのメッセージを込めてきました。
麹チーズケーキのベースとなっている麹は、上越市の安塚区で育てた五百万石という酒米からつくっています。担い手がいなくなる寸前の棚田で始めた、農薬・化学肥料を使わない米作りは、ズシンとした体験を私たちに与えてくれています。
放っておくと大量に生えるヒエやコナギの除草は、今年ずいぶんと進化し、昨年感じた“果てしなく続く感”にサヨナラすることができました。さらに、稲がもつ自己回復力に感動する出来事もあり“イネってスゴイ“と思うばかりです。
土質や水、畦やその周辺も含め稲が育つ環境を整えることが、大切なのかな。そんな風に最近は思うようになりました。
このように雪深い山間地をフィールドにスタートした米作りですが、今では田んぼの周りの里山へと関わりが広がっています。里山には様々な植生があり、それらがこれからの私たちの「生きる」に有用に働くのでは?という感覚を抱いています。そこに眼差しをもち、デザインというフィルターを通しながら、その価値を再構築したい、と考えています。