夏のフルーツ

つくる人つくる想い

― Vol.1 命が活躍する発酵食―

森で心を整え、奈良の発酵文化を食卓へ。寧楽発酵・北村愛さんが届けたいもの。

想いを込めて作るものには、なぜ惹かれるのだろう

「心を整えるために、森へ行くんです」

そう話す北村愛さんの笑顔は、どこか凛としていて、それでいて柔らかい。

奈良の森を歩き、木々の香りを感じながら深く息を吸う。 自然の中で心を整え、まっさらな自分で発酵と向き合う。 その時間は、北村さんにとって毎日の仕込みと同じくらい大切な時間だといいます。

「整った自分で、食べものをつくりたい」

発酵は、生きた菌とともにつくるもの。 だからこそ、菌だけではなく、自分自身の心も整えておきたい。 その言葉からは、ものづくりへの誠実な姿勢が伝わってきました。

奈良は、発酵発祥の地ともいわれる土地。

古くは「寧楽(なら)」と呼ばれ、 自然のあらゆるものに神が宿るという、 日本人ならではの精神文化が今も息づいています。

土にも、水にも、菌にも、そして人にも命が宿る。

そんな奈良の風土の中で北村さんが届けているのは、 「命が活躍する発酵食」です。

体を変えたかった。その想いが発酵との出会いだった

北村さんが発酵の道へ進んだきっかけは、自分自身の体でした。

幼い頃から全身アトピーに悩み、長期入院も経験。 二十代前半には大病を患い、 「体は交換できない。でも、毎日の食事なら変えられる」 という思いが人生を大きく変えました。

食養生を学び、料理人として歩み始め、三十歳で奈良に最初の店舗をオープン。 料理教室も開き、全国から多くの人が学びに訪れるようになります。

しかし、料理を提供する日々の中で、北村さんの想いは少しずつ変わっていきました。

「食べてもらうだけではなく、自分で自分の体を守れる人を増やしたい」

その想いから店舗を閉じ、現在は全国で発酵料理や食養生の講座を開きながら、 知識を伝える活動を続けています。

料理をつくる人から、暮らしを支える人へ。

形は変わっても、その根底には「食で人を元気にしたい」という願いがあります。

発酵は、菌任せではない。人と菌が一緒につくるもの

「発酵は温度と時間で決まります」

同じ麹を使っても、発酵温度や時間が少し違うだけで味はまったく変わります。

だから北村さんは、その日の気温や湿度、 素材の状態を見ながら、発酵を細やかに見守ります。

「菌に任せきりではなく、人も一緒に力を合わせて仕上げていく。」 それが寧楽発酵のものづくりです。

菌は目には見えません。 けれど、生きています。 だからこそ、人も真摯に向き合う。

そんな姿勢が、一つひとつの商品に宿っています。

素材の向こう側にいる「人」を選ぶ

北村さんが見ているのは、素材だけではありません。 その素材を育てた人です。

二十年以上使い続けている奈良の麹。 長期熟成で醤油や味噌を仕込む蔵。 吉野杉の木桶で静かに酢を育てる職人。 希少な味醂を醸す酒蔵。 無農薬で米を育てる生産者。 御神水や自然結晶の塩。

どれも品質だけで選んだものではありません。

「この人がつくるものだから使いたい」

そう思える人たちとの信頼関係が、寧楽発酵の味を支えています。

「健康だから」ではなく、「おいしいから続く」

発酵食品は健康に良い。 そう言われることは多くあります。

でも北村さんは、「健康だから」という理由だけでは長く続かないと話します。

「おいしいことが、一番大事なんです」

笑顔になること。 また食べたいと思えること。 毎日の食卓に自然と並ぶこと。

その積み重ねが、健やかな暮らしにつながると考えています。

知識も、おいしさも、どちらも大切。 その姿勢が、北村さんのものづくりの軸になっています。

「いただきます」が自然と生まれる食卓へ

奈良には、千年以上受け継がれてきた発酵文化があります。

その文化を守る蔵元や生産者たちもまた、日々、 自然と向き合いながら手仕事を続けています。

北村さんは、その人たちの想いを受け取り、 発酵という仕事を通して、食べる人へ届けています。

「命が活躍する発酵食」 その言葉には、菌の命だけではありません。

自然の命。 生産者の命。 食べる人の命。

たくさんの命をつないでいきたいという願いが込められています。 食卓に料理が並び、自然と「いただきます」と手を合わせる。 その時間そのものが、寧楽発酵の届けたい豊かさなのかもしれません。

編集後記

北村さんのお話を伺っていて、 一番心に残ったのは「命」という言葉でした。

発酵とは、菌が働くことだけではありません。 自然の力を受け取り、人が手を添え、次の誰かへ受け継いでいく営みです。

森で心を整えて、仕込みをする北村さん。

その姿を思い浮かべると、 「想いを込めて作るものには、なぜ惹かれるのだろう」 という問いの答えが、少し見えた気がしました。

食べもののおいしさは、素材や技術だけでは生まれません。 つくる人の時間や想いに触れたとき、その一皿は、 もっと豊かな味わいになるのだと思います。


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