鶏のアニマルウェルフェアとは?
私たちは2018年に「自然放牧場お多福たまご」を立ち上げてから、今までずっと変わらず「放し飼い」で鶏たちを育てています。 私たちの鶏たちが暮らす鹿児島では、昔から「庭先養鶏」の文化があります。祖父母の話では、昔はどこの家でも庭先には鶏が放し飼いで自由に過ごしていたといいます。鶏たちは、日中は庭先を歩いて暮らし、夜は、家の軒下や鶏小屋で過ごします。そして、魚を炊いたものや野菜くずをあたえ、昔は貴重な栄養源だった「卵」を産み、大切に育てられてきたそうです。 来客やお祝い事があれば、有難く、そのお肉を捌き、煮込み料理や炊き込みご飯などにし、余すことなく頂いていたそうです。当時はそれが一番のごちそうだったと聞きます。 そんな話を聞きながら、始めた養鶏は自然と「放し飼い」でするようになりました。 昔は自由に動き回れた鶏たちですが、今では、放し飼い場には側面と天井部にネットを張らなくてはならない等、各自治体や家畜保健所の基準が設けられています。
↑養鶏場を始めた当初
「グッド・ファーム・アニマル・ウェルフェア・アワード」にて「グッドエッグアワード」受賞
2024年10月21日(月)、国際畜産動物福祉団体(Compassion in World Farming)(以下CIWF)による「グッド・ファーム・アニマル・ウェルフェア・アワード」がフランス・パリで開催され、15カ国以上から49社が受賞し、日本からは2社の養鶏場が受賞しました。 このアワードは、アニマルウェルフェア及び、持続可能で自然に優しい食品の生産に積極的に取り組む企業を表彰するものです。 今回、畜産動物の福祉向上に向けた取り組みが高く評価され、「オーガニック放牧卵 お多福たまご」及び「オーガニック烏骨鶏卵 霧島烏骨鶏」が「グッドエッグアワード」を受賞いたしました。 養鶏を始めた当初から「もし、自分が鶏だったら」と考えて取り組んできました。だからこそ、私たちにとっては、木々の下で過ごす鶏たちの風景は見慣れた光景になっていますが、山奥の養鶏場の中でもくもくと鶏たちのお世話をしていると、世界の事を知る機会がなかなかなかったので、この賞をきっかけに、「世界の養鶏の今」を学ぶ事ができました。 また、世界から見た「日本の養鶏の現状」を知るきっかけにもなりました。
「アニマルウェルフェア」との出会い
私たちが「アニマルウェルフェア」という言葉と出会ったのは、2018年に環境省主催「グッドライフアワード」で「エシカル賞」を受賞した時のことです。今ではよく耳にする「エシカル」という言葉ですが、当時はまだ聞きなれない言葉で、その時「エシカル」の意味を学びました。 また、環境だけでなく、人や地域、社会にやさしい取り組みとして評価いただくとともに、「放し飼い」という選択は鶏たちにとってもやさしいと評価いただきました。 審査員のエシカル協会末吉さんとお話しする機会があり、その中でヨーロッパでは平飼い・放し飼いの卵がごく普通に売られていて、アニマルウェルフェアについてもとても関心が高いといったお話をお聞きしました。その時から、「鶏のアニマルウェルフェア」について考えるようになりました。
〜「自然放牧場お多福たまご」の取り組み〜
・ガスや電気を極力使わない環境と鶏にやさしい「放し飼い」
・鶏にあたえる餌は農薬・化学肥料を使用しない穀物や野菜
・未利用資源の有効活用で持続可能な卵の生産
鶏の「アニマルウェルフェア」とは
「アニマルウェルフェア(動物福祉)」とは、「家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要であり、結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながる」とあります。 ※農林水産省HP参照(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html)
5つの自由とは
「アニマルウェルフェア」は日本だけの取り組みではなく、1960年代の英国で、家畜の劣悪な飼育管理を改善させ、家畜の福祉を確保させるために、その基本としてこの「5つの自由」が定められました。現在では、家畜のみならず、ペット動物・実験動物等あらゆる人間の飼育 下にある動物の福祉の基本として世界中で認められ、EUではこれに基づい て指令が作成されています。
(1)飢えと渇きからの自由
(2)不快からの自由
(3)痛み・傷害・病気からの自由
(4)恐怖や抑圧からの自由
(5)正常な行動を表現する自由
※公益社団法人日本動物福祉協会HP参照(https://www.jaws.or.jp/welfare01/)
鶏の飼育方法の違い
調べていく中で、日本で暮らす鶏たちはこの「5つの自由」に基づく「採卵鶏の飼養管理に関する技術的な指針」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/230726-11.pdf)が設けられていて、その中で鶏舎の種類も様々あることを知りました。
(1)開放型鶏舎…自然光が鶏舎内に入り、空気の出入りも自由な構造の鶏舎
(2)セミウィンドウレス鶏舎…開放型鶏舎にカーテン等を設置した構造で、ウ
ィンドウレス鶏舎に準じた強制換気等による環境コントロールを行いやすくした
鶏舎
(3)ウィンドウレス鶏舎 …天井、壁、床を断熱材等で覆い、換気と光線管理は
人為的に管理される鶏舎
また飼養方式も様々です。
<ケージ方式> 金属製のカゴで飼養する「ケージ方式」では、従来型の「バタリーケージ」のほか、ケージの中に止まり木、巣箱、砂浴び場等の付帯設備を設置した「エンリッチドケージ」の方法もあります。
<平飼い方式> 「平飼い方式」にも様々種類があり、鶏舎内又は屋外において、鶏が床面又は地面を自由に運動できるようにして飼養する方法ですが、最近では「エイビアリー」という、止まり木を設置した休息エリア、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びのできる運動エリアを備えた方法も耳にするようになりました。
上記でご紹介した様々な鶏舎、飼養方式がある中で、私たちは「放し飼い」で育てています。鶏たちは、野外の放し飼い場に自由に出入りできる方法を取っています。夜や卵を産むときや、ご飯やお水を飲む時などには鶏舎に帰ってきます。もちろんインドアの子は鶏舎でのんびり過ごしている事もあります。
鶏の様子を観察する。
でも、どの鶏舎、飼養方法もそれぞれメリット・デメリットがあり、これが絶対素晴らしい!とは一概にいえないのではないかと思います。 ただ、「5つの自由」や「採卵鶏の飼養管理に関する技術的な指針」を読む中で、鶏たちが健康的に暮らせているかを常に観察することが一番大切なのだと思いました。
シンプルな事ですが、毎日鶏たちの様子を見ていると、今まで気が付かなかったことも見えてくることもあります。
たとえば、餌の好き嫌いをする子がいるなど。
お米が大好きな子は、お米ばかり探して食べていたり、野菜が好きな子は野菜から、はたまた太陽を浴びたい子は餌を食べる前に太陽を浴びに放牧場に散歩に行ってしまいます。
人間関係も色々あるように、鶏社会にも色々あるようで、時には喧嘩をしている事もあります。できるだけストレスフリーに暮らしてもらえるよう、日々、鶏たちの様子を見ながら、鶏の心と体の健康管理に努めていきたいと思っています。
日本で放し飼いの卵ってどのくらいあるの?
日本の鶏たちの約90%以上が、金属製のカゴで飼養する「ケージ方式」で暮らしているといわれています。つまり、平飼い・放し飼いの卵は、とても少数です。
調べてみたのですが、日本にはケージフリーで飼育される鶏の割合の公式データはありません。
様々な調査結果がある中で、ケージフリー(平飼い・放し飼い)の割合が1.11%(※アニマルライツセンター2023年調べ)という調査結果もありますが、現在はもっと増えているのではないかと思われます。 ※アニマルライツセンターHP参照(https://arcj.org/issues/animal-welfare/1percent-cage-free/)
しかし世界に目を向けると、EUでは2012年からバタリーケージを禁止。
2012年時点で42.2%だったケージフリー飼育は、2021年は55%と増えているそうです。
アメリカでも2018年のケージフリー鶏は全体の17.6%。
韓国では、2021年末の時点でのケージフリー鶏は4.6%。
台湾では、2021に放し飼い、エンリッチドケージ、平飼いの卵の基準を改定するなど、世界で放し飼いへの動きが感じられます。
※アニマルライツセンターHP参照(https://www.hopeforanimals.org/eggs/abroad/)
「グッド・ファーム・アニマル・ウェルフェア・アワード」を振り返る。
今回の授賞式の中では、鶏だけでなく、牛や豚、ウサギ、羊、魚など様々な動物福祉に真摯に取り組む15カ国・49社の企業・事業所の皆様が集まりました。
フランスで行われた授賞式の中で「日本のケージフリーの割合は世界に比べて非常に少ない」と紹介されたのがとても印象的でした。
また、受賞者の中で南フランスでアニマルウェルフェアの乳牛に取り組まれている方の言葉で「時にはこれでいいのだろうか?と思うこともあった。お金に辛抱することもあった。でもそんな時は、自由時間を使って、工夫して、努力してきた。」といったような事を話されていました。
違う国、取り組む内容も違う中でも、動物とともに暮らし、働く中での悩みは共通していて、でも諦めず、努力している人がいる。 その事を知れただけでもとてもとても励みになりました。 養鶏場を営む中で、始めることも難しいけれど、続けていくことの難しさも実感しています。 でも世界には壁にぶつかりながらも、動物福祉に真摯に取り組み、広げていこうとする人たちがたくさんいる事を知ることができました。 これからも鶏たちへの感謝を忘れず、まだまだ精進していきたいと思います。