2026/06/16
私たちの醤油づくりは、木桶とともにあります。
蔵に並ぶ木桶の多くは、100年以上前から受け継がれてきたものです。
長い時間をかけて微生物が棲みつき、この蔵ならではの味や香りを育ててきた、醤油づくりの大切な環境です。
だからこそ私たちにとって木桶を守ることは、単に設備を残すことではありません。
未来の味を守ることだと思っています。

私たちの醤油づくりの土台になっているのは、100年以上使い続けてきた木桶です。
蔵に並ぶ木桶の多くは、親子何代にもわたって受け継がれてきたものです。
それは、この蔵の味や香りを育てる、大切な環境そのものだと思っています。
木桶の中には、長い年月をかけて微生物が住み着きました。
麹菌、酵母菌、乳酸菌。
目には見えませんが、それぞれが関わり合いながら醤油の味わいを育てています。
そしてこの蔵ならではの微生物の生態系を「蔵癖(くらぐせ)」と呼んでいます。
100年以上という時間をかけて育まれた木桶だからこそ、この蔵独自の香り、味、色合いにつながってきます。
原料が同じでも、環境が違えば味は変わります。
だからこそ、木桶そのものが醤油づくりに欠かせない一部となるのです。

しかし、その大切な木桶も永久に使えるものではありません。
時間とともに傷み、手を入れながら使い続けても、いつか寿命が来ます。
私は、木桶を守ることが、今の蔵にとってとても大きな課題だと感じています。
100年以上受け継がれてきたものを、次の100年へどうつないでいくのか。
50年後も、100年後も、変わらず醤油を届け続けるためには、木桶を更新しながら、蔵全体を整えていく必要があります。
伝統を守るというのは、ただ昔のまま残すことではありません。
続けられる状態をつくることだと思っています。

実は、木桶をつくる職人さんは、長い年月のなかで、桶職人は少しずつ減ってきました。
かつては全国にいた桶職人も、一時はほとんど途絶えてしまいました。
業界では、「最後の一軒」と言われるほど危機的な状況だったこともあります。
でも、木桶がなければ、木桶仕込みの醤油も続きません。
だから私は、桶職人の技術継承に取り組む「桶職人復活プロジェクト」に関わっています。
醤油蔵だけでは、この文化を守ることはできません。
桶屋さんがいて、桶を直し、新しくつくり、それを蔵が受け継ぐ。
その循環があってこそ、木桶仕込みという文化は続いていくのだと思っています。
幸い、私たちの蔵の近くには、代々桶づくりを生業とし、新たに醸造用の大桶づくりに取り組む桶屋さんがいます。
今では、木桶を受け継いでいくための大切な存在です。

私たちの蔵には、100年以上使われてきた古い木桶が約40本あります。
古いからこそ微生物が息づき栄醤油の味・香り・色が造られる、その一方で、古くていつ壊れて使えなくなるかわからないというのが実情です。
そのため、今後も醤油の製造を続けていくためには新たに木桶を買うことが必須という状態でした。
令和7年の夏から既存の醤油蔵の横に、新しい木桶蔵の建設を開始しました。
令和8年4月1日に新しい木桶蔵が引き渡しとなり、そこに新桶6本を納めるとともに、既存の蔵から新木桶蔵への引っ越しを約1月かけて行いました。
木桶をどうやって動かすか、どこを通して移設するか、動かしたら壊れないかなど不安はありましたが、家族や社員、桶屋さん、大工さんで協力してなんとか無事に引っ越しを終えることが出来ました。
今後はさらに新桶を増やしていくとともに、古い桶から新しい桶に蔵ぐせを移し、新桶を育てていく期間になります。
新しい木桶を増やしつつ、古い桶を更新していく先に、最終的には桶100本という構想を描いております。
木桶の寿命は一般的に100年前後使われると言われています。
単純に考えると、桶が100本あれば、毎年1本ほどが役目を終える計算になります。
毎年1本ずつ木桶を更新していくことで、
私たちは木桶仕込み醤油を造り続けられる。
桶屋さんには仕事が生まれる。
職人の技術も守られていく。
一方だけが頑張るのではなく、お互いが続いていく仕組みをつくることが大事だと思っています。
これから先も安定して醤油を届け続けるため、蔵では設備の見直しも進めています。
大豆を蒸す圧力釜、小麦炒り機、圧搾機、瓶詰機、、、、。
木桶を受け継ぐことと合わせて、蔵全体を少しずつ整えていこうと考えています。
それは、たくさん作ることだけが目的ではありません。
今使ってくださっている方へ、変わらず届け続けること。
そして木桶仕込みの醤油を、次の世代にも残していくこと。
100年前の誰かが守ってくれた木桶を、100年先へ手渡していく。
そんな思いで、今日も木桶と向き合いながら醤油を醸しています。


栄醤油醸造は、江戸時代、寛政7年創業の醤油醸造元です。かつて城下町として栄えたこの場所で、200年以上醤油造りを受け継いできました。昔ながらの木桶造りにこだわり、現在7代目。「丸大豆・小麦・塩」の原料を活かした天然醸造による醤油造りを今なお続けています。「天然醸造」とは、1に本醸造であること、2に酵素の添加により酵素の促進を行っていないこと、3に保存料などの食品添加物を使用していないこと、の3点を満たした醤油造りのことを言います。 長い歴史の間にお蔵に棲みついた菌の助けを借りながらじっくりと時間をかけて熟成させることで、栄醤油特有の「味」・「色」・「香り」が生みだされるのです。






