病虫害の駆除および除草のための薬剤
「病害虫や雑草との戦いは、わたしたちの祖先が農業を始めてからずっと続いています。今までに様々な防除方法が工夫されてきましたが、20世紀に入るまで決定的なものはありませんでした。農薬の登場により、わたしたちは、それまでになかった確実な防除方法を手に入れることができました。」
~農薬工業会 PR動画「1 農薬とは/1-2 作物栽培と農薬」より~
この国の高温多湿な環境で、慣行の栽培方法においては害虫や病原菌の蔓延は死活問題です。また、雑草についてもその管理は多大な労力を要するものです。それらの防除効果を飛躍させたのが「農薬」の登場です。
農薬には多くの種類があり、その用途も様々です。 農林水産省では以下のように分類しています。 なお、現在使われている農薬には生物農薬もありますが、ほとんどが化学農薬です。
(種類) (用途)
殺虫剤 農作物を加害する有害な昆虫を防除する
殺ダニ剤 農作物を加害する有害なダニ類を防除する
殺線虫剤 根の表面や組織に寄生し加害する線虫類を防除する
殺菌剤 植物病原菌(糸状菌や細菌)の農作物を加害する有害作用から守る
除草剤 雑草類を防除する
殺虫殺菌剤 殺虫成分と殺菌成分を混合して、害虫、病原菌を同時に防除する
殺鼠剤 農作物を加害する鼠類を駆除する
植物成長調整剤 植物の生理機能を増進または抑制して、結実を増加させたり倒伏を軽減したりする
忌避剤 鳥や獣が特定の臭い、味、色を嫌うことを利用して農作物への害を防ぐ
誘引剤 主に昆虫類が特定の臭いや性フェロモンに引き寄せられる性質を利用して害虫を一定の場所に集める
展着剤 薬剤が害虫の体や作物の表面によく付着するように添加する
~農薬工業会ホームページより~
同機関によると、作物ないし土壌に施用された農薬は、作物体内での代謝・分解・光や微生物による分解、大気中への蒸発、土壌中への浸透や流亡などによって消滅するとのことです。また、その消滅速度は、薬剤の種類や気象、土壌条件、栽培条件等の各種環境要因によって異なっているようです。
農薬の影響について
厚生労働省の食品安全委員会が定める農薬の残留基準があり、人が摂取しても健康を害することがないとする量が食品ごとに設定されています(ポジティブリスト制度)。また、農薬が基準を超えて残留することのないよう農薬取締法により使用基準が設定されています。食品の輸入時には、検疫所において残留農薬の検査等を行っている、というのが一般に知られている現状です。
農産物自体への残留による人体への影響だけでなく、土壌に残留したものが流亡あるいは大気中へ霧散し、短期的、長期的にどのように自然環境に影響を及ぼすのか。
関係機関は多くの試験データをもとにその安全性を主張しています。 ところが農水省は、企業の権利を守るためとし、農薬登録時に提出された生データの公開を拒んでいます。試験で用いられた農薬の純度や、検体の生体内で生成された代謝物などは公表されない(あるいはデータ化されていない)ケースがほとんどです。
毒性試験データの作成については、中立的な国内の権威ある試験機関で実施することを原則としていて、一部例外的に、国際的に権威ある機関で作成されたものの提出も認められています。 中立機関には「残留農薬研究所」(国と農薬メーカーと農業団体の出資で1970年に設立)や大学、民間の試験機関などがあります。 アメリカにおいては、1976年にIBT社(インダストリアル・バイオ・テスト社)による大規模かつ悪質なデータの捏造が問題になりましたが、日本国内でIBTデータをもとに登録された国内メーカーの農薬名は、今なお明らかにされていません。
また毒性試験についても、試験に使用する農薬と市場流通するそれとの差異(純度や不純物含有量の違い)や、動物実験による種差(試験動物とヒトとの差異)におけるギャップ、個々の農薬とそれら以外の化学物質とが関連した複合毒性など、結論を出すに至らないものが少なくありません。
中には、天然由来であるとか作物に残留しないなどの理由で、農水省が試験データの提出を免除しているものもありますが、後になって発がん性を認められるに至った農薬もこれまでにありました。
単位当たりの使用量が世界一の日本
OECD(経済開発協力機構)が2002年に発表した耕作地面積当たりの農薬使用量を国ごとに比較したグラフを見ると、日本が1.5t/㎢のトップで、韓国1.29、オランダ0.92と続きます。対してカナダや東欧、北欧は少なく、最も少ないスウェーデンは0.06t/㎢に過ぎません。
さらにこの10年前の調査では、オランダが2.1t/㎢で1位、続いて日本1.7、フランス0.5でしたので、その後オランダが国を挙げて農薬使用量を半減させたことが窺えます。
豊かな土壌生態系が、土壌を有機的に循環させる
土壌においては、生産・消費・分解の役割を担うたくさんの生物が有機的に関連しつつ、ともに円滑に機能しています。そのおかげで、安定した生態系が構築されているのです。中でも、線虫・ダニ・トビムシ等の中型動物は個体数において多数を占め、主に有機物を分解して土壌を豊かなものにしています。微生物は分解産物をさらに無機態にして、植物にとっての栄養分に変化させる役割も担っています。
またミミズも同様で、有機物の分解を担当するばかりではなく、その糞が土壌微生物の繁殖場となり、また土壌団粒化(土壌が排水性と保水性を併せ持つこと)を促進してより良い環境をつくり、土壌内における循環の安定を手助けしています。
このようにして土壌生態系が有機的に構築されると、ある特定の生物だけが特異的に増加することがなくなります。人間の都合で名付けられた「害虫」ばかりではなく捕食者となる「益虫」も存在し、両者の均衡が保たれやすくなります。
ところが、これまでにいくつかの大学や研究機関が行った研究報告によると、除草剤の多用が原因で土壌内の生態系と物質循環が撹乱されているとの報告があります。
除草剤多用による、土壌生態系と物質循環の撹乱
それらの報告によると、除草剤連用区では草の量が不使用区の半分ほどで、その種類も著しく減少しています。
草種が多いことは、そこに生息する生物相を豊かにし、また草量が多いことは、有機物の土壌への環元とともに有機物を分解する生物を増やすことに繋がります。したがって、除草剤を使用し続けることで土壌内の生物が減少し、ひいては有機物の分解を担当する生き物が減ってしまうのです。報告書にはまた、除草剤を使用していない試験区の方がミミズの個体数が多かったとも書かれています。
確かに除草の手間はかかりますが、除草剤を使用しなければ、多くの場合は土壌が自ずと豊かになっていくのです。
ましてや、殺菌剤や殺虫剤を併用するとなると、生物は減少しこそすれ豊かになるとは考えられません。
報告書の内容をまとめると、
除草剤不使用区は除草剤連続使用区と比較して、
・草の種類が多い
・草の量が多い
・一年生雑草が優先的に生える(除草剤連用区では多年生*が多い)
・細菌類が多い(除草剤連用区では糸状菌が多い)
・ミミズが多い
・分解者である線虫・ダニ・トビムシ等の中型動物が多い
・土壌のpHが0.1~1.6の差で常に高い(除草剤連用区は酸性寄り)
などの違いが確認されています。
*多年生雑草
多年草とも呼びます。
タンポポやススキ、スギナのように、地上部が枯れても根が生き残って生えてくる草です。
「宿根草」とも呼ばれていて、種子繁殖をしながらも、地上部が枯れても根が生き残るため、農家にとっては悩みの種です。どちらかと言えば痩せ地に多い草です。
対して一年草はハコベやナズナ、メヒシバといった、根だけが生き残って繁殖することができない、種子繁殖の草です。春に発芽して秋に枯れる夏草と、秋に発芽して越冬する冬草に分けられます。