コロナが始まった2020年以前、毎年、一人でふらりと旅をする時間をもっていました。 ある年、ミラノの中心部のブレア地区にあるボタニカルガーデン「オルトボタニコディブレラ」、植物の特性を探求するこの庭で、私は日本で馴染みの植物を見つけました。 それは「紫蘇」です。
梅干を漬ける初夏に出回る紫色の葉。実家の裏の畑にあるその植物がミラノにありました。紫蘇について私の脳裏に浮かぶのは、梅仕事をする母の割烹着姿や、梅干しで作ったおにぎりなど、ありきたりの日常の光景です。 けれどブレラのボタニカルガーデンでは、他の植物と並んで一つの研究対象となっており、なんだか紫蘇が、裏の畑からからいきなり世界の表舞台に立ったようで、その時は紫蘇にかわって照れくさくも光栄な気分でした。
同時に、植物が持つ特性を研究し、それをもとにファッション、フード、アートなどの産業や文化を興してきたイタリアの視座を見た気がしました。
身近な自然界にある植物の有用性に目を向け、過疎化や高齢化で縮小する地域に、小さくても循環する経済が生み出せないか。 ミラノでの出来事をきっかけに、地域での取り組みのなかから「里山ボタニカル」のブランドを立ち上げ、里山の植生をベースにした地域資源を商品にしてとどけることをつづけています。 今の時代の地域社会にどのような灯りをともせるか、ローカルに拠点を置く私たちだからこその挑戦でもあると思っています。 “コロナが落ち着いたら、ブレラの紫蘇たちに会いに行きたいな” 夏の気配に促されるように、そんな想いがよぎる今日この頃です。