OCAのオーガニックカカオ農園に、また一つ自然との共生を深める新たな取り組みが始まりました。それは――ハリナシバチ(針なし蜂)の養蜂です。
その名のとおり、彼らには人を刺すための鋭い針がありません。とてもおとなしく、体も2〜4mmほどと小さく、近くにいても気付かないほど静かに暮らしています。私たちが思い浮かべる「蜂」とはまったく異なる、可愛らしくて繊細な存在です。
日本ミツバチとの違い
日本でよく知られているのは、「ニホンミツバチ」や「セイヨウミツバチ」ですが、それらとはいくつかの大きな違いがあります。
例えば、ニホンミツバチは針を持っており、外敵や人に対して攻撃的になることもありますが、ハリナシバチにはその針がないため、扱いやすく、養蜂初心者や自然農法に取り組む農家との相性が抜群です。
また、巣の構造も異なります。一般的なミツバチの巣が平らな六角形の巣板を重ねるのに対して、ハリナシバチの巣はまるで迷路のような螺旋状。樹のうろや木箱の中に作られたその巣は、見る者を惹きつける独特な造形美があります。
ハリナシバチの蜂蜜 ― 森のしずく
ハリナシバチが集める蜜は、非常に少量で、年間わずか200ml〜1リットル程度しか採れません。そのため市場にはほとんど出回らず、「幻の蜂蜜」とも呼ばれています。
その味わいは、まさに自然のエッセンス。フローラルで柑橘のような爽やかさがあり、ほんの一滴でも豊かな香りが広がります。糖度は一般的な蜂蜜よりやや低めで、口に含んだ瞬間にスッと溶けるような、軽やかな甘さが特徴です。原住民の間では、古くから薬蜜として利用され、傷口の消毒や喉の薬としても重宝されてきました。
カカオとの共生と循環型農業
OCAのカカオ農園では、農薬や化学肥料を一切使わないオーガニック農法を実践しています。そんな環境は、ハリナシバチにとっても安心して暮らせる理想的な場所です。
彼らはカカオの花の受粉を助けてくれる、頼れる小さなパートナー。実はカカオの受粉には特定の昆虫の助けが必要で、ハリナシバチを含む在来の微小な昆虫たちの活動が、収穫量や品質を左右することもあります。自然のサイクルを大切にするOCAにとって、これはとても大きな意味があります。
小さな命がつなぐ未来
農園でハリナシバチの巣箱を覗いてみると、そこには静かだけれど確かに生きている命の営みがあります。彼らは言葉を持たないけれど、その働きはまさに自然の一部。カカオ、土、花、雨、太陽――そして蜂たち。すべてが繋がり合い、互いに支え合いながら、私たちの農園を育んでくれています。
これからこのハリナシバチたちと共に、OCAではさらに自然に寄り添った農業の形を探っていきます。そしていつか、この希少な「森のしずく」を皆さまにお届けできる日が来ることを願って、丁寧に大切に育んでいきたいと思います。