百年ピクルスとは

佐賀県鹿島市の老舗漬物蔵で無添加の漬物を作っています

百年ピクルスは、佐賀県鹿島市にある漬物蔵「たぞう」で作る無添加の漬物ブランドです。 ここでは百年以上続く老舗漬蔵の技法を用いた漬物を、ひとつひとつ手作業で漬け込んでいます。 私はそこで働きながら、蔵を借りて自身のブランド「百年ピクルス」として無添加の漬物を作っています。

「百年ピクルス」という名前には、百年以上続いてきた漬物文化が、百年先まで続いていってほしいという願いを込めています。現代の担い手として、長年続いてきた食文化をただ左から右に流していくのではなく、昔ながらの知恵を現代に活かしながら、次の時代へより良いものとして渡していけるよう、日々漬物作りに励んでいます。

自分で作った安心安全な野菜を使いたいと考え、5年ほど前から農業も始めました。最初はパパイヤなどを作り、奈良漬けにしたりしましたが、ビニールハウスの設置などが必要で育てるのが難しく、今は作りやすい高菜や菊芋、生姜を無農薬で育てています。

勤務している「たぞう」の社長の協力を得ながら、自身で作ったり選んだりした素材を使って漬物を作っています。

漬物を作り始めたきっかけは移住先で偶然出会った漬物蔵

私の出身は長崎で、現在は佐賀県鹿島市に住んでいます。 もともと食に関心が高かったわけでもなく、特に漬物が好きという訳ではありませんでした。 そんな自身の食への意識が変わったのは鹿島に来てからです。2013年、震災をきっかけに福岡から佐賀へと移住しました。親しい友人の故郷が鹿島だったことから、この場所を選びました。

南には有明海があり、周囲は脊振山系や多良山系などの山々に囲まれた佐賀平野は古くから米どころとして発展してきました。江戸時代の宿場町として栄えた「肥前浜宿(はましゅく) 」には、美味しいお米ときれいな水が豊富であることから、日本屈指の酒どころとして知られ、春と秋には酒蔵まつりがひらかれます。

私が勤める「たぞう」は、そんな酒蔵で生産された酒粕を用いた奈良漬などを明治初期から作ってきた創業およそ130年の老舗の漬物店です。

もともと福岡で音楽の仕事をしていた私は、移住をきっかけに偶然、「たぞう」に出会いました。鹿島に来て初めて住んだアパートがたまたま「たぞう」の元従業員用のアパートだったのです。 そこでは熟練の職人さんたちが全て手作りで漬物を製造していました。 漬物が好きでもなかったのに、そこで作る手作りのらっきょうを初めて食べた時、おいしさに衝撃を受けました。今でもその感動を覚えています。 従業員の募集があったわけではないのですが、古く立派な蔵に魅了され、自分から申し出て働かせてもらうことになりました。

漬物を作るうちに芽生えた食への関心

「たぞう」で働くようになってから、食への意識がどんどん変わっていきました。

漬物は、昔から保存食として日本人の生活に馴染んできました。また、おみやげや贈り物として親しまれてきた側面もあります。そんな背景もあり、長期保存や、歯ざわりや発色を良くするために、最も多くの添加物を含む食品とも言われています。

たくさんの商品を作れば、たくさんの人が買ってくれていた、ひと昔前までの時代には向いていた製法なのかもしれませんが、今では、若者を中心に漬物離れが進んでいます。 大量生産、大量消費ではなく、素材にこだわり、自分が本当においしいと思うものをひとつひとつを丁寧に作って届けていく方が、これから漬物文化をつないでいくために大切なことなのではないかと思うようになりました。

たぞうの社長に相談し、添加物を入れなくてもおいしい漬物の作り方を学びました。 そして、漬物を若い世代にも手に取ってもらえるように、彩りもきれいで、味もまろやかで食べやすい「百年ピクルス」を新商品として考案しました。

そして、自分で畑を始めて、自家栽培の野菜で高菜漬けやキクイモの味噌漬けなどを作り始めました。これらの漬物は、素材も作り方も極めてシンプルですが、発酵の力で深い味わいに仕上がります。身近にある自然の力を借りて、長期保存を可能にしたり、栄養価を高めたり、素材の美味しさを最大限に引き出す。漬物を作りながら、いつも先人の知恵をしみじみと感じています。

漬物文化と蔵を百年先まで残したい

自然が豊かな鹿島で、自然農家さんとの出会いはたくさんあります。たべるとくらすとに出店しているBigFamilyFarmさんも、鹿島で出会った農家さんのひとりです。自然栽培を長年続けるBigFamilyFarmさんから学ぶことはとても多く、素材を提供してもらい、共同で漬物を作ったりもしています。

「たぞう」の社長も頭の柔らかい人で、私の漬物作りへの思いを汲んでくれ、たくさんのアドバイスを下さいます。長年の経験から培われた漬物作りのレシピや、知恵を惜しみなく教えてくれる師匠とも言える大切な存在です。

今後の展望としては、作った商品を買ってもらうという一方向のやり取りだけでなく、もっと有機的なつながりをお客さんと持ちたいと思っています。そのために、「たぞう」の蔵で、梅干し作りワークショップや、食に関する映画の上映会など、様々なイベントを行っています。漬物作りや蔵でのイベントにお客さんにも参加してもらいながら、漬物文化をともに育み、次の世代へつないでいきたいです。

自分で作った「百年ピクルス」とは別に、長年続いてきた「たぞう」のブランドもまた、漬物を作る中で残していきたい名前です。そんな理由で、商品の一部に「たぞう」の名前を使わせてもらっています。