2026/03/24
瀬戸の島々をめぐる「しまなみ海道」の四国の玄関口、愛媛県今治市大西町で、有機栽培にこだわり柑橘を育てている「おおくぼきみひろ果樹園」です。
かつて柑橘栽培が盛んだったこの地域も、近年は生産者の高齢化が進み、耕作放棄地も増えてきました。
私の師匠は、この状況を食い止め、次の世代につなげたいという想いで、有機栽培に取り組んでこられました。
その師匠から多くのことを学びながら、仲間たちと「優樹の里」という有機栽培生産者グループを結成し、互いに支え合いながら、それぞれの農場経営に励んでいます。
現在、仲間が作っているものも含めると約50種類の柑橘を栽培しています。
まだ収穫量が少ない品種も多いですが、どの園地も今後収穫量が上がると見込んでいます。
個人のお客様への販売はそれぞれが行いますが、法人様へはロットの関係で仲間と商品を集めあって対応したり、規格外の商品は自前の加工場で主にジュースなどの加工品にして無駄なく活用しています。
必要な時は集まって結束し、普段はそれぞれが個々の農場経営に専念するという、理想的な形で活動できています。






私は以前、造船会社で設計の仕事をしていました。
モノづくりがしたくてその道を選びましたが、200mクラスの船舶を建造するには何百人もの人が関わり、設計は一工程に過ぎません。実際には、図面を描くよりも、自分の部署、他部署、メーカー、お客様など、人との調整が大きな割合を占め、「自分は何のために悩んでいるのだろう」と感じることが増えていきました。
さらに、自分が設計した船が完成するのはその1,2年後。その頃には別の設計をしており、自分が設計した船が完成したという実感を得るのが難しいような状況でもありました。
そんな中、趣味で始めた家庭菜園は全く違う世界でした。
美味しい野菜を収穫するという明確な目的のために、毎日水をあげて肥料をやり、雑草を取る。
やるべきことの意味がはっきりしていて、自分で手間をかけた分だけ美味しい野菜ができた時の充実感は何物にも代えがたいものでした。
「農業を仕事にできたらいいな」という想いが、次第に強くなっていったのです。
柑橘が好きだったこともあり、2025年3月、研修募集のタイミングが合って、今の師匠のもとで有機柑橘農家の研修を受けることになりました。
最初から有機栽培にこだわりがあったわけではありませんでしたが、研修中に周辺の慣行農家が辺り一面霧のように農薬を散布する光景を目にして、衝撃を受けました。
こんなにも大量の農薬を使うのかと少し気持ちが悪くなり、慣行農業の現実を知った今では、完全に有機志向になっています。
もともと何かを育てることが好きだった性分もあり、農業の世界に飛び込んで本当に良かったと感じています。
太陽の下で作業し、土に触れていると、会社員時代とはストレスの具合が全然違います。
もちろん、大変なことも多くあります。例えば、特に暑い時期の草刈りは大変で、雑草の伸びるスピードには驚かされます。数か所ある園地を順番に草刈りしていき、全ての園地が終わったころには、最初に刈った園地の雑草が元通りに生え揃ってしまっていることも多々あります。そのため、夏場はずっと草刈りに追われます。そんな草刈り作業ですが、草刈りを終えた時のすっきりとした園地を眺めると、なんともいえない達成感を得られます。
その他の作業についても、目的がはっきりしていて、大変ながらも充実感や達成感を得ながら作業をすることができています。
今は農業を仕事にできていることを本当に幸せに感じています。




今後は、肥料の配合や量をもう少し工夫していきたいと考えています。
具体的には、BLOF理論を勉強し、土作りや施肥設計について学び、より美味しく糖度の高い柑橘を作ることを目指します。
作物の体を構成する細胞、その細胞はタンパク質を主体に作られていて、そのタンパク質の基本となる原料がアミノ酸です。さらに、そのアミノ酸の原料は、光合成により作られた炭水化物と根から吸収した窒素です。そのため、肥料として窒素を与えます。
慣行栽培では、化学肥料で無機の窒素を与えますが、有機栽培では、有機物を菌によりアミノ酸まで分解させた有機肥料を与えます。この有機肥料を与えるということは、アミノ酸の形で窒素を与えるということです。
近年、作物はアミノ酸を根から吸収できることが分かってきています。
作物がアミノ酸を根からそのまま吸収することで、作物内で根から吸収した無機の窒素と光合成で作った炭水化物でアミノ酸を合成する過程を省略でき、その分、余った炭水化物を果実の糖や細胞の成長に回せるということが、有機栽培の基本的な考え方です。
ただし、この考え方だけで美味しい柑橘が作れるわけではありません。
今後は、土壌分析を行ない、不足する栄養素やミネラルを確認し、その結果を施肥設計と土作りに反映させるといったこともやっていきたいです。
土作りと肥料にこだわりを持って、有機栽培だからこそできることを追求し、本当においしい柑橘を作りたいと思っています。
慣行農業か有機栽培かという区別ではなく、まずはおいしいからという理由で選ばれ、そこから有機栽培は素晴らしいという価値観を持っていただけるようにできたら理想です。
師匠から学んだことを活かしながら、自分なりの工夫も加えて、より良い味わいの柑橘を育てていきたいです。
環境にとっても、生産者にとっても持続可能な農業を目指します。
有機栽培では除草剤を使わず草刈りをしますが、刈った草は園地に放置したままとし、やがて小動物や微生物によって分解され、土に還り、養分が果樹に吸収されるという流れを考えると、有機栽培というのは環境の中でうまく循環した無駄のない栽培方法だと思います。一方で、農作業をしていて土の中から昔の人工的なゴミが出てくることがありますが、そういったゴミは拾って畑の中にゴミを残さないように心がけています。
こうして、できるだけ自然のまま、自然の中の循環を大切にして、この自然を次の世代へ繋げていくことも自分たち世代の使命だと考えています。
今後は後継者のいない園地を借りて、さらに園地も増やしていきたいと思っています。有機栽培から慣行栽培に転換するには多少時間はかかりますが、一つひとつの園地をしっかり管理して、地域の後継者不足の問題と耕作放棄地の問題に少しでも力になれればと考えています。
農薬を使用せずに栽培するということは、食べて頂ける方々だけでなく、生産者の立場からも健康的な生産方法です。いくら志や理想があっても、ある程度健康でないと農業は続けられません。有機栽培を行なうことで、自分たちの健康も大切にすること、それが農業を続けること、土地を守り続けることに繋がると考えています。
規格外の柑橘も加工品として活用し、無駄なく皆様にお届けできるよう努めています。
無駄を無くすこと、それを少しでも収益に変えることで、経済的にも持続可能な生産を確立します。
現在は、一般的には、慣行栽培と有機栽培の同じ種類の柑橘が並んでいた場合、見た目や価格から慣行栽培のものが選ばれがちだと思います。
将来的には、一般的にも有機農産物の価値を認めてもらえるようになり、広く多くの人が有機農産物を選択肢の一つとして考えてくれるような社会になればいいなと思います。
良いものを作ることで、より多くの人に食べて頂いて、有機栽培への関心を高めることができる。そんな思いで、安心して食べられる美味しい柑橘を届けることを楽しみにしています。



愛媛県今治市大西町にて、オーガニック柑橘の栽培を行なっています。栽培期間中、農薬・除草剤・化学肥料は使用しません。その分、栽培に手間はかかりますが、何より安心してお召し上がり頂ける果物を作るため、手間は惜しみません。
有機肥料にこだわり、乳酸菌で発酵させた"ぼかし肥料"を手作りしています。乳酸菌は、この土地の菌を自分たちの手で培養しています。乳酸菌が仕上げてくれた、この土地の柑橘の味を、是非、お試しください。

