海と海苔について

海苔は海を守る環境産業です

「海苔は、環境産業である。」 私たちは海苔養殖を通じて海の変化を日々見ています。

海苔漁師が感じる、海の環境変化

当社の創業当時、岡山県笠岡市沖にはたくさんの海苔漁師が軒を連ねていました。 しかし、海の環境の変化により、収穫量が大幅に減ったため、現在は、私たちせのお水産を含め、2社しか残っておりません。

海苔は海域を浄化する

瀬戸内海の海を見ると、透明な青々とした海ではなく、濁った緑色をしています。これはプランクトンが多いことを表しています。 海苔は植物性プランクトンと同じように「栄養塩」と呼ばれる、窒素・リン・ケイ素などの海中に溶け込んでいる栄養を吸収して成長します。 この栄養塩は山や陸からやってきます。 生物のふん尿、動植物から分解されたリンや窒素などが、雨が降ることで、川の水をつたい海に届けられます。 海苔はその養分を吸収して、光合成で海に溶け込んだ二酸化炭素を酸素に変えながら、海域を浄化し、温暖化防止に貢献しています。 その海で、プランクトンが育ち、魚が育っています。 瀬戸内海の多様な生態系を守る上で、海苔をはじめとする海藻類が果たしている役割は非常に大きいのです。

きれいになりすぎた瀬戸内海

しかし、近年、海で海苔が育ちにくくなっています。 その原因として考えられるのは、海がきれいになりすぎたこと。 きれいになることっていいことじゃないの? と不思議に思われるかもしれません。 海苔にとっては必要な栄養塩(窒素・リン・ケイ素)は、多すぎるとプランクトンが大発生し、赤潮で水質汚濁が生じます。 反対に少なすぎると、今度は海苔や海藻類が育たず、海の生態系や食物連鎖にも影響を与えることになります。 岡山県の笠岡沖付近では、高度成長期以降、工場などが増え、人口が増えたことによって、生活排水が海に流れ、それを栄養分にするプランクトンが増えすぎて赤潮が発生し、海の環境が悪化しました。 水質改善のために、1973年に施行された『瀬戸内法』と呼ばれる法律で、排水総量規制がなされ、下水処理場が作られるなど様々な整備がされました。

ところが・・

約50年を経て、現在は反対に、きれいになりすぎて必要な栄養塩が海に届きにくい状況になり、海苔だけでなく魚介類全般が育たなくなっています。

栄養塩の不足した海は、海苔の「色落ち」を引き起こします。 色落ちとは、海苔が色が薄くなり、薄茶色になってしまう状態。

私たち海苔漁師にとって、黒々とした海苔の色はとても重要な品質の指標。また、海の状態を表す指標とも言えますが、年々、難しさを感じています。

水質改善策も、これまでの不衛生なものを取り除くことから、もう一歩先に向かわなくてはなりません。循環によって成り立ってきた、栄養豊かな瀬戸内海、漁業が成り立つ海を維持することの大切さを、海苔づくりを通して私たちも伝えていきたいです。

干潟や藻場は「海のゆりかご」

海苔は海のいろんな生態系を守っています。 護岸工事などによって、干潟や藻場の埋め立てが増えたことは、海苔を育てる環境が少なくなってしまいます。 同時に、魚が産卵する場所や、稚魚が過ごす場所がなくなってしまうことで、魚類の生産量も種類も減ることにつながるのです。 干潟や藻場は「海のゆりかご」として、生物による自然浄化の場として、保全していくことが大切だと感じています。

海水温の上昇により、漁期も短く

さらにここ数年の、温暖化による海水温の上昇も、かつてのように海苔が育ちにくくなっている要因の1つです。 海苔の種付けは通常、毎年10月頃から始まりますが、海水温が上がるとその時期が遅れ、以前は3カ月ほどあった漁期も1カ月と、どんどん短くなってきています。

せのお水産では、この環境の変化の中でも、瀬戸内海産の海苔を届け続けるために、温暖でも育つ養殖岩のり種の生産に挑戦しています。 まだまだ研究中であり発展途上ですが、瀬戸内海にもっと合う岩のりの種を探るべく、試験養殖を継続しています。 さらには、アオノリの陸上養殖についても勉強を始めています。

美味しい海苔を届けながら、海の保全を伝える

「陸の人たちに向けて、 私たち漁師が海の変化を情報発信していかなければならない」。 海苔養殖を通じて海の変化を見続けている私たちにできることは、海苔が育つ海の環境の現状を伝えていくことです。 この自然環境と向き合い、試行錯誤の中から生まれた私たちの美味しい海苔を、より多くのみなさまに食べていただくことで、私たちの海に対する想いを伝えたいと考えています。

そのためにも、自信を持って提供できる、安心で美味しい海苔を作ることに、日々、丹精を込めております。私たちの作る海苔を通じて、自然の恵みによって生かされていることや、人と自然の関わり方を考えるきっかけになればと思います。

私たちの仕事は、日々、自然との対話です。 毎日、毎年違う自然環境の中、大変なこともありますが、ワクワクしながら、「じゃあこうしてみたらどうか」という気持ちで楽しく挑戦しています。

今後も海苔づくりを通して、環境変化や世の中の需要を考えながら、10年後、20年後を見据えて、どのように私たちの仕事を守り、自然と共に生きていくかを考えています。そして海苔業界の人たちだけでなく、他業界の人たちとの情報交換も積極的に行いながら日々成長していきたいと願っています。